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ボーアの直観から実存主義的様相解釈へ

bohr

Is it crazy enough?


ニールス・ボーアはEPR論文への反論の中で、次のように主張しました。


【主張1】
「ある粒子とそれに関するある特定の測定を行うように調整された装置とは、いろいろな点で単一の系をつくっているのであって、もしも装置の御膳立が変えられたならばこの系もある本質的な仕方で変えられることになる。こうした理由から、問題の粒子と相互作用するはずの装置の御膳立を一緒に特定することなしに、粒子の状態について何らかの推論を行うことは許されない。」
(B.デスパニア「量子論と実在」より引用)


以上のボーアの主張はEPR相関を念頭においたものですが、その思想を単一光子の偏光測定にあてはめれば、つぎのように主張できます。


【主張2】
「ある光子とそれに関するある特定の偏光測定を行うように調整された偏光板とは、いろいろな点で単一の系をつくっているのであって、もしも偏光板の透過角度が変えられたならばこの系もある本質的な仕方で変えられることになる。こうした理由から、問題の光子と相互作用(吸収あるいは透過)するはずの偏光板の透過角度設定を一緒に特定することなしに、偏光板に到達する前の光子の状態について何らかの推論を行うことは許されない。」


だがしかし、当のボーアを中心としたコペンハーゲン学派において合意形成が図られた量子力学の解釈、すなわち、コペンハーゲン解釈では【主張2】に反するつぎのような主張がなされます。


【主張3】
「ある光子とそれに関するある特定の偏光測定を行うように調整された偏光板とは、光子が偏光板に到達する前においては別々の系として捉えられるのであって、もしも偏光板の透過角度が変えられたとしても偏光板に到達する前における光子の偏光状態が何らかの本質的な仕方で変えられることはない。こうした理由から、問題の光子と相互作用(吸収あるいは透過)するはずの偏光板の透過角度設定とは関係なしに、「偏光板に到達する前における孤立した光子の偏光状態は一定である」という推論を行うことが許される。」


EPR相関を念頭においた【主張1】が正しいなら、単一光子の偏光状態に関する【主張2】も正しいといえそうなのに、測定前の測定対象と測定装置とを別々の系として捉えるコペンハーゲン解釈(【主張3】)がなぜ採用されたのでしょうか。その理由は、【主張1】における「もしも装置の御膳立が変えられたならばこの系もある本質的な仕方で変えられる」という文の「ある本質的な仕方」とは具体的にどんな物理的状況を指すのかをボーア自身が示せなかったからでしょう。つまり、ボーアは「ある本質的な仕方」の存在を直観的に見抜いてはいたが、それが具体的にどんな物理的状況を指すのかが曖昧だったために、観測問題がつきまとうことを承知の上で道具主義的なコペンハーゲン解釈を容認せざるを得なかったのでしょう。


「もしも装置の御膳立が変えられたならばこの系もある本質的な仕方で変えられる」という【主張1】の文は、歴史的事実としての本源的確率事象を認める立場に立って、相対論的因果律を考慮するとつぎのように書き換えられます。


【主張4】
「装置の御膳立(測定装置の設定)の原因となっている本源的確率事象を頂点とする未来光円錐の内側における測定前の測定対象の状態は、その測定装置の設定の相違に応じて異なる。」


つまり、「ある本質的な仕方」に本源的確率事象と相対論的因果律が関係していることは明らかです。しかし、そのような理解だけでは測定前の測定対象の状態と測定装置の設定との定量的な関係が不明です。


測定装置設定の原因となる本源的確率事象を頂点とする未来光円錐の内側における測定前の測定対象の状態は、ボルンの規則と帰納法にもとづく次のような推論により特定することができます。


【推論】
1.ボルンの規則は、測定装置の設定(測定基底)に対応する測定値(固有値)の確率分布を与える。
2.ゆえに、測定装置の設定の原因となる本源的確率事象を頂点とする未来光円錐の内側における測定では、常に、測定値の確率分布がボルンの規則に従う。
3.そこで帰納法を適用すると、測定装置設定の原因となる本源的確率事象を頂点とする未来光円錐の内側における測定前の測定対象の状態は、その測定基底に関する混合状態であり、その確率的混合の割合は一般化されたボルンの規則に従うといえる。


ただし、ここで「一般化されたボルンの規則」とは、測定時の測定対象の状態に関する確率則である現行のボルンの規則を、測定前の測定対象が採りえる状態に関する確率則(可能性の規則)へと一般化したものです。以上の【推論】が正しければ、【主張2】は次のように厳密な形に書き換えられます。


【主張5】
「ある光子(単一光子)とそれに関するある特定の偏光測定を行うように調整された偏光板とは、偏光板の透過角度設定の原因となっている本源的確率事象と相対論的因果律にもとづいて因果的かつ非力学的に(相互作用を介さずに)結ばれた単一の系をつくっているのであって、もしも偏光板の透過角度が変えられるならばその変化の原因に遡ってこの系も変えられることになる。こうした理由から、問題の光子と相互作用(吸収あるいは透過)するはずの偏光板の透過角度を一緒に特定することなしに、偏光板に到達する前の光子の状態について何らかの推論を行うことは許されない。ただし、偏光板の透過角度の設定に関する情報を持っているなら、帰納法に基づいた推論が可能である。すなわち、その偏光板の透過角度の設定に関する原因事象(本源的確率事象)を頂点とする未来光円錐の内側における測定前の光子の偏光状態は、その偏光測定基底に関する混合状態であり、その確率分布は一般化されたボルンの規則に従う。」


なお、【推論】や【主張5】によって示された解釈では、測定対象の状態の遷移面が未来光円錐面になっているため、その解釈は観測者の運動の仕方に依存せず、あらゆる観測者にとって一貫した記述が可能であるという意味でローレンツ不変です。


コペンハーゲン解釈や多世界解釈などの従来解釈は、「閉じた量子系の状態の時間変化はハミルトン演算子(ハミルトニアン)により一義的に決定される」という量子力学の公理(以下、自然決定論公理という)を前提としています。そのため従来解釈によれば、最初に水平偏光のみを透すH偏光板を透過した光子の偏光状態は、その単一光子系が外部系と相互作用しない閉じた量子系である限り、H偏光状態(純粋状態)のままです。ところが、【推論】や【主張5】によって示された解釈が正しいなら、測定前の光子の偏光状態は因果的な様相の変化に対応して相互作用を介することなく混合状態へと変化します。つまり、【推論】や【主張5】によって示された解釈では、自然決定論公理やその補助公理である射影仮説は成立しません。


【推論】や【主張5】に示された解釈が従来解釈に反する効果を予測する例として、第1のH偏光板を透過した単一光子の偏光状態が第2の偏光板によって測定される測定系について考えてみます。従来解釈が正しければ、もし第2の偏光板が垂直偏光のみを透すV偏光板であれば、測定対象の光子は第2の偏光板で確実に吸収されるはずです。しかし、【推論】や【主張5】に示された解釈が正しければ、光子が第2のV偏光板で吸収されるとは限りません。もし、光子が第1のH偏光板を透過する時空点において、第2の偏光板の透過角度を99.999%の確率で+45°に設定することが決まっており、かつ、0.001%の確率で+90°に設定することが決まっていれば、第1のH偏光板を透過した直後における光子の偏光状態は、一般化されたボルンの規則を適用することにより、49.9995%の確率で+45°偏光状態,49.9995%の確率で−45°偏光状態,0.001%の確率でH偏光状態,0%の確率でV偏光状態の混合状態だと考えられます。そこで、その後光子が第2の偏光板の透過角度を+90°に設定することを確定する原因事象(本源的確率事象)を頂点とする未来光円錐に入ったなら、その未来光円錐面で光子の偏光状態は遷移して、50.0005%の確率でH偏光状態,49.9995%の確率でV偏光状態の混合状態になります。つまり、上記の様に因果的様相が変化する特殊な事例では第1のH偏光板を透過した単一光子が第2のV偏光板も透過して観測される可能性がでてきます。


コペンハーゲン解釈は、現実世界を仮想的な神の視点(自然決定論公理)に立ったミクロスコピックな世界と現実の観測者の視点に立ったマクロスコピックな世界とに分けて捉え、それらの世界を繋ぐために射影仮説(観測公理)を要請しました。一方、多世界解釈は、現実世界を仮想的な神の視点(自然決定論公理)に立った多世界として捉え、射影仮説を排除しました。他方、【推論】や【主張5】によって示された解釈は、現実世界を現実の観測者(いまここの私,実存)が俯瞰する歴史世界として捉えます。そして、本源的確率事象を現実の観測者(いまここの私、実存)を頂点とする過去光円錐の内側(歴史世界)の歴史的事実として認め、仮想的な神の視点(自然決定論公理)を斥けます。そのため、その解釈では実存を基準とした可能性や時制・空間制や因果関係といった様相概念が物理の基本概念に加わります。そこで、私は【推論】や【主張5】によって示された新しい量子力学の解釈を実存主義的様相解釈と名付けました。


実存主義的様相解釈が正しければ、観測問題は解決します。なぜなら、それは測定前の測定対象の状態がどのような過程を経て測定基底に関する混合状態へと遷移していくのかを因果的に記述できるからです。たとえば、それはシュレーディンガーの猫が生状態と死状態との重ね合わせ状態ではなく生状態か死状態かの混合状態であることを保証します。シュレーディンガーの思考実験は、アルファ粒子の非到達・到達を測定するガイガーカウンターの設定に関する原因事象(本源的確率事象)が現実の観測者(いまここの私,実存)を頂点とする過去光円錐の内側で生起した歴史的事実であることを前提にしています。したがって、ガイガーカウンターの設定に関する原因事象を頂点とする未来光円錐の内側ではガイガーカウンターに向かうアルファ粒子は一般化されたボルンの規則に基づいて無いか有るかの混合状態だといえます。ゆえに、猫の状態も生状態か死状態かの混合状態であるといえます。また、実存主義的様相解釈はジョン・ホイーラーが遅延選択の思考実験において記述を断念した測定前の測定対象の状態遷移を因果的様相の変化に基づく非力学的な状態遷移としてローレンツ不変な形で記述できます(Great Smoky Dragonを覆う霧を払いその本体を白日の下に晒し出します)。



コメント
本記事の投稿をお知らせ頂きありがとうございます。

記事を読ませていただきました。
実験の成功を祈っております。
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